物理の大統一理論まで独学で行く地図
物理を独学で大統一理論(GUT)まで行く道は、無謀に見える。ただ、道筋は意外と一本だ。対称性と保存則を軸にして、力学から順に積み上げていく。この記事は、その道を10回に分けた地図として書く。各回では、何を手に入れるかだけを並べる。
地図の全体と前提
地図に入る前の準備がある。微分積分(偏微分と重積分まで)と線形代数だ。ここが弱いと、第2回で止まる。特に線形代数は、後半のSU(2)やSU(5)で効いてくる。大学1・2年の範囲で足りる。そのうえで、10回の全体像を表にする。
| 回 | テーマ | 手に入れる道具 |
|---|---|---|
| 第1回 | 力学 | 対称性と保存則で読む運動法則 |
| 第2回 | 微分幾何 | 多様体・テンソル・微分形式・接続と曲率 |
| 第3回 | 電磁気学 | マクスウェル方程式、特殊相対論、ゲージ変換を共変形式で |
| 第4回 | 解析力学 | 変分原理、ネーターの定理、場の解析力学 |
| 第5回 | 量子力学 | 状態と演算子、角運動量とSU(2)、ゲージ原理の芽 |
| 第6回 | 相対論的量子力学 | ローレンツ群、ディラック方程式、カイラリティ |
| 第7回 | 場の量子論 | 場の量子化、ファインマン図、QED、くりこみ |
| 第8回 | ゲージ場の理論 | ヤン=ミルズ、QCD、漸近的自由 |
| 第9回 | 標準模型 | 対称性の破れ、ヒッグス機構、電弱統一 |
| 第10回 | 大統一理論 | 結合定数の走り、SU(5)、陽子崩壊、SO(10) |
古典から入る(第1〜4回)
最初は 第1回の力学 だ。ニュートンの法則を、対称性と保存則で読み直す。ここで、「保存則は対称性の結果だ」という見方を手に入れる。この見方が、最後の第10回まで一本の線で続く。
第2回の微分幾何は、一番の関門だ。多様体、テンソル、微分形式、接続と曲率。道具としては重いが、あとの電磁気学とゲージ理論を支える言語になる。第3回で、マクスウェル方程式とゲージ変換を共変形式で書き直す。ここで電磁気が「U(1)ゲージ理論」に見えてくる。
第4回の解析力学は、変分原理からネーターの定理、場の解析力学までを扱う。力学を場の言葉で書けるようにする回で、第7回以降の下地になる。
量子の世界へ(第5〜7回)
第5回の量子力学 で、状態と演算子、角運動量とSU(2)を扱う。ここで初めて「ゲージ原理」の芽が出てくる。第6回は、相対論と量子力学を合わせた世界だ。ローレンツ群、ディラック方程式、カイラリティ。のちに標準模型で効いてくる、左右の区別の話がここで出る。
第7回の場の量子論 は、場の量子化、ファインマン図、QED、くりこみ。難しい回だが、ここを越えると、素粒子の計算が「見える」ようになる。
ゲージ理論から標準模型へ(第8〜9回)
第8回は、ヤン=ミルズ理論、QCD、漸近的自由。強い力が、近い距離ではほとんど自由に振る舞い、遠いほど強くなるという性質を、式で追う。
第9回の標準模型 で、対称性の破れとヒッグス機構、電弱統一、フェルミオンの表を扱う。バラバラに見えた素粒子が、一つの表にまとまる回だ。
終点:大統一理論
第10回 が終点になる。三つの力の結合定数は、エネルギーを上げるにつれて値が走り、近づいていく。この近づき方を、SU(5)やSO(10)のような大きな群の下で一つにまとめる、というのがGUTの発想だ。ただし、最小のSU(5)は、予言された陽子崩壊が見つかっていないために、そのままでは成り立たない。「終点」とはいえ、答えが出た場所ではなく、現在の研究の入口にあたる。
独学の進め方
最後に、10回を進めるときの決まりを書く。
- 1回に1か月かけるつもりで、焦らない。
- 演習は必ず解く。読んだだけでは、手が覚えない。
- 分からない回は飛ばして戻る。第2回の微分幾何は、第3回を読んでから戻っても構わない。
- 記録を付ける。何が分かって、何が分からないか。
- 全部を理解しようとしない。くりこみや群の表現論は、一周目は「何をしているか」が分かれば十分。二周目で式を追えばいい。独学で止まる原因の多くは、完璧に分かるまで先に進まないことだ。
地図そのものは、Mathesis Press の note にまとまっている。各回の演習も含めて、Mathesis Press の note に並べてある。最初の一歩は、第1回だ。力学の一冊から始めろ。